「米国が日韓の関係について仲介案を提示」との“誤報”から生じた“虚報”の記録

2019-08-12

誤報→取材不足、確認不足で発生する偽のニュースのこと
虚報→ ありもしない情報を媒体がでっち上げること (虚偽報道・捏造)

 2019年8月2日、日本は輸出管理の優遇対象国から韓国を外す決定を下しました。
 同7月1日より「輸出管理の見直し」の広報を行ってきた日本政府は、韓国政府の動向を注視しながら淡々と事を進めてきたように見えます。しかし一方で、この約一ヶ月間に目の当たりにした一部マスコミの周章狼狽ぶりには唖然とさせられました。
 表題の通り、由々しき“誤報”を流したり、その “誤報” で自紙の主張の補強をしてみせたり、さらには誤報であることが明らかになっているにも関わらず、まるで事実だったかのように主張し続ける“報道機関”があります。

 この原稿を書いている8月3日
 毎日新聞 朝刊/社説に次のような見出しがあります。

 韓国を「輸出優遇」除外 負のスパイラルを案じる

 社説で新聞社がどのような主張を繰り広げていても私は特に気に留めることはありません。それぞれの主義主張に基づいて「色」を出すことは悪いことだと思いません。
 しかし「新聞の顔」である社説を、虚偽の情報によって組み立てるという不埒な行いは見咎めます。
 以降に一部を引用します。

(前略)
 米国が「仲介」に乗り出そうとしたが、日米韓の外相会談を待たず、日本は除外を決めてしまった。
(以降略)

https://mainichi.jp/articles/20190803/ddm/005/070/142000c

   

 同じく8月3日 東京新聞 朝刊/社説には、

 ホワイト国除外 「報復」の悪循環やめよ

 との見出しがあります。以降に一部を引用します。

(前略)
  混乱の拡大を懸念し、韓国だけではなく米国も見送るよう求めていたのにもかかわらず、除外を強行した責任は重い。
(中略)
 みかねた米国が、対立の一時棚上げの仲裁案を提示したという。もう日韓両国による事態収拾は無理だろう。仲裁を受け入れ、歩み寄るべきだ。
(以降略)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019080302000141.html

 

 ともに、米国が「仲介」あるいは「仲裁」したのを日本が振り切って、韓国のホワイト国除外を行ったように書かれています
 しかし現時点では、そうした事実は確認できないのです。


 どうしてこのような論調が存在するのかを確認してみましょう。

   

 ここから先は時系列で流れを追います。

 7月1日以降、日韓関係について米国側が立場を表明した機会は幾度がありましたが、ここで最初に注目したいのは「7月13日 米国・ハリス駐韓大使」のコメントです。


●共同通信 駐韓米大使、日韓の仲裁に消極的 「時期ではない」  7/13 16:28

(前略)
 日本政府が半導体材料の韓国向け輸出規制を強化したことに関し、米国のハリス駐韓大使は13日までに、「今は米国が2国間に介入する時期ではない」と述べ、日韓の早期仲裁に消極的な姿勢を示した。
(以降略)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190713-00000077-kyodonews-bus_all

  

  

 もともと同問題をめぐっては、米国はまったく関与する姿勢を見せていませんでした。
 7月10日、韓国・康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が米国・ポンペオ(Mike Pompeo)国務長官と電話会談を行った際にも色好い返事は引き出せずに終わったことからも米国の姿勢は鮮明でした。

 日本政府はこうした韓国側の動向を注視しながら、7月1日から募集開始となっていたパブリックコメント等で国内世論にも目を配りつつ、韓国に対する輸出管理の見直しを着々と進めていました。

 そこへ「米国が動く」との一報がもたらされます。


●ロイター トランプ米大統領、日韓の対立解消へ支援の意向  2019年7月20日 / 02:30

(前略)
 トランプ米大統領は19日、政治・経済問題を巡り高まっている日本と韓国との緊張解消に向け手助けする意向を示した。
(以降略)

https://jp.reuters.com/article/southkorea-japan-laborers-trump-idJPL4N24K3HN

  

  

 結果から言えば、これは“誤報”となりました。
 話の「大事な部分」がすっぽりと抜け落ちていたからです。
 この報道は「トランプ大統領が記者団に向かって話した内容」であったため、その記録は複数のメディアが所持しており、やがて各社の報道は軌道修正されていきました。
 上の記事から1時間後に、同じロイターが報じた記事を参照ください。


●ロイター トランプ米大統領、日韓対立解消へ支援の意向  2019年7月20日 / 03:30

(前略)
「双方が望むなら関与する。日韓関係に関わるフルタイムの仕事のようなものだが、両首脳を気に入っている」と述べた。
(以降略)

https://jp.reuters.com/article/southkorea-japan-laborers-trump-idJPKCN1UE299

   

   

 「双方が望むのなら」という大前提が抜けていたばかりか、これに言及するまでの話の流れも他紙によって明かされました。





●ブルームバーグ トランプ氏不満、時間取られたくない-文大統領が日韓への「関与」要請  2019年7月20日 / 4:49

(前略)

 トランプ氏は19日、「『なんとたくさんの事に私は関わらなくてはならないのか』と私は言った」とホワイトハウスで記者団に話した。「北朝鮮問題に関わっているし、いろいろたくさんの問題に関わっている。韓国とは素晴らしい貿易協定をまとめたばかりだ。だが文氏は、貿易面で多くの摩擦が起きていると私に言ってくる」と語った。

(中略)

「日韓の問題に関わるのはフルタイムの仕事をするようなものだ」とトランプ氏。「ただ両首脳とも私のお気に入りだ。文大統領のことは好ましく思っている。安倍首相に対して私がどう感じているかはお分かりの通りだ。彼もとても特別な男だ」と述べた。

(以降略)

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-19/PUWJ5Z6S972901

   

   

 上のような発言があった後に、「双方が望むなら」のくだりがあったわけです。

 実際にはトランプ大統領の発言は「私は忙しいのに・・・」と愚痴をこぼしつつも「両国が望むなら間に入ることも考える」という趣旨だったことが明らかになっています。

 こうした事情がわかった後で、改めて第一報に注目してください。

 同報道におけるニュースソースは、トランプ大統領が記者団に向けての発言した一連の内容以外にはありません。

 
 つまり、最初から最後まで報道材料の増減は、何一つとして無かったのです。

 どういう経緯でこのような第一報になったのか、という疑問だけが残りますが後述とします。

   

 さて、時間は進みます。
 日本政府と経済産業省は7月24日にパブリックコメントを締め切り、集計を開始。賛成意見の圧倒的多数を確認して韓国のホワイト国除外を決定する閣議を執り行うための最終調整に入っていました。
 24日に行われたWTOの一般理事会でも、何ら不測の事態は起こらず、米国をはじめとする第三国が日本の輸出管理に口を挟むような動向は見られませんでした。


 この頃の状況は、折角ですので冒頭出の東京新聞/7月26日/夕刊 から引用します。

韓国「ホワイト国」 2日にも除外決定 政府、輸出管理規制  2019年7月26日 夕刊

 政府が半導体材料の韓国向け輸出規制強化を巡り、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取っている「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を、八月二日にも閣議決定する方向で調整していることが二十六日、分かった。 (以下略)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019072602000292.html

   

   

 いよいよホワイト除外の閣議決定が濃厚となり、その日付も8月2日との情報も確定した後、またもや問題となる報道が現れました。

 発端はこれら英字媒体の記事でした。



 ロイター通信 7月31日 2:50 AM 
https://www.reuters.com/article/us-southkorea-japan-usa/u-s-urges-japan-south-korea-to-look-at-standstill-agreement-for-trade-feud-idUSKCN1UP26U

 ブルームバーグ 7月31日 6:34 7月31日 13:28 更新
https://www.bloomberg.com/news/articles/2019-07-30/u-s-urges-japan-south-korea-to-reach-standstill-in-trade-spat

 ロイターの見出し(日本語に翻訳)
米国は、日本、韓国に貿易摩擦の「停止協定」を検討するよう要請する

 ブルームバーグの見出し(日本語に翻訳)
米国は貿易摩擦を停止させることを日本、韓国に要求する

   

これらメディアの情報を元に、共同通信、朝日新聞などが次々と速報記事を出して7月31日の朝を迎えました。


●共同通信
日韓対立、米が仲介提案
ホワイト国から除外の延期促す
7/31 07:44    7/31 12:42 updated

(前略)
 米政府高官は30日、日本による対韓輸出規制強化など一連の日韓対立を巡り、現状を維持し新たな措置は取らない状態で交渉する協定への署名を求める仲介案を提示したと明らかにした。事実上、日本に安全保障上の輸出管理で優遇措置を取る「ホワイト国」から韓国を除外する手続きの延期を促す内容で、一層の対立激化を回避させたい考えとみられる。ロイター通信が伝えた。
(以降略)

https://this.kiji.is/529023150206256225

   

   

 先頭に立って報じた英字媒体の記事には「高官が語った」とだけ記されており、一体どこで誰がいつ発言したかというソースが一切提示されていません。よって、一報の当初からその内容の信憑性が疑問視されていましたが、日本の一部メディアはご丁寧にも「独自解説を加筆」してまで報じました。
 
 果たして、その真偽のほどは間もなく白日の下となりました。


●読売新聞 米の日韓仲介提案、菅長官「そのような事実ない」 07/31 14:15


 菅官房長官は31日の記者会見で、米国による日韓両国への仲介の提案について「そのような事実はない」と否定した。
(以降略)

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190731-OYT1T50106/

   

   

 「(匿名の)米高官が仲裁案を提示した」とする報道に対して、菅官房長官が「そのような事実はない」と会見で否定しているにも関わらず、それでも尚、次のような記事も翌日の紙面を賑わしました。


東京新聞 日韓対立、米が仲介提案 双方に一時停止促す  8月1日 朝刊

(前略)
 米政府高官は三十日、日本による対韓輸出規制強化や元徴用工問題など、深刻化する日韓対立の一時停止に合意するよう両国に提案している、と明らかにした。米英の通信社がそれぞれ報じた。
 米ブルームバーグ通信によると、米政府高官は三十日、記者団に対し「米国は日韓両国がさらに交渉の時間を確保するため、『停止協定』を結ぶことを働き掛けている」と語った。
 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が両国の担当者と話したとも指摘した。
(以降略)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201908/CK2019080102000145.html

   

   

 この東京新聞の記事には、菅官房長官が記者会見の席上で否定したことすら「割愛」されていました。
 よほど日本の政府高官を信用していないか、匿名の米政府高官の話の裏取りができたのか。あるいはそのどちらでもない、報道を装った戦略的な何かに基づいた紙面作りであったのかは私にはわかりません。

 どのような思惑があろうとも、必ず結果は出ます。



●TBS 日米韓外相会談、米から「具体的仲介案」示されず

(前略)
 日本と韓国の対立が深まる中、日米韓3か国の外相会談が行われましたが、外務省はアメリカ側から日韓関係の改善に向けた具体的な仲介案は示されなかったと明らかにしました。
(以降略)

https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20190802-00000072-jnn-pol

  

  

●外務省 河野外務大臣臨時会見記録(令和元年8月1日 21時45分 於:タイ・バンコク)

【記者】アメリカが日韓の関係について仲介案を提示したということが取りざたされていますが日本に仲介案の提示はあったのでしょうか。
【河野外務大臣】全く事実としてありません。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000854.html

  

 

●外務省  河野外務大臣臨時会見記録(令和元年8月2日 21時10分 於:タイ・バンコク)

【記者】先ほどのポンペオ長官のご発言について,両国で話し合いをして問題解決に向けて努力してほしいということなのですが,これはポンペオ長官が間に入って何か仲介をするというものでは・・
【河野外務大臣】違います。別に仲介とかなんとかということではなくて,両国の問題は両国で話し合って解決してください,ということでした。
【記者】韓国側は,アメリカもできることをやると,役割を果たすというようなご発言を紹介しているのですが,そういった事実関係というのはありますでしょうか。
【河野外務大臣】特にそんな発言はなかったということです。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaiken4_000855.html

   

  


 ここまで見てきたように、現時点までで、米国が仲介あるいは仲裁に動いた事実はどこにも確認できません。
 日米韓外相会談を終えた後の韓国・康京和外相が韓国メディアに伝えた話の中にも、米国のポンペオ国務長官が米国メディアに伝えた話の中にも、仲裁や仲介、仲裁案、停止協定などが提示されたという情報は見当たりません。
 それでも日本の一部マスコミが冒頭のように「 米国が「仲介」に乗り出そうとしたが、日米韓の外相会談を待たず、日本は除外を決めてしまった。」だとか、「 韓国だけではなく米国も見送るよう求めていたのにもかかわらず、除外を強行した責任は重い。 」などと書き連ねているのが現状なのです。

 「日米間首脳会談の前に日本が除外を決めた」という主張については、日本が8月2日に除外の閣議決定を行うことは1週間も前に決まっており、その閣議決定の前日である8月1日にも日米の外相は直接話す機会があったこと、その場で米国側から何ら言及が無かったという事実が完全に無視されています。

 ましてや 「混乱の拡大を懸念し、韓国だけではなく米国も見送るよう求めていたのにもかかわらず、除外を強行した責任は重い。」「 みかねた米国が、対立の一時棚上げの仲裁案を提示したという。もう日韓両国による事態収拾は無理だろう。仲裁を受け入れ、歩み寄るべきだ。 」など、事実に基づかない「妄言」については、もはや改めるまでもありません。

  

 今回のケースでは、その第一報から意図的に誤報を流した可能性もあります。「米政府高官が○○と話した」としか書かれていないため、どこで、誰が、誰に向かって、それを語ったのかという部分が無いのだから、この上なく不確かなソースと見ることができます。

「いつどこで誰がと書けないけど、アメリカの偉い人が日本と韓国の貿易摩擦を仲裁をするって言ってたよ」


 これが「報道」と呼べますか。

 それ以上に問題なのは、このソースの信憑性を評価、確認することをしないまま、さも「事実」であるかのように扱う媒体があることです。

 まさに「虚報」=虚偽報道、捏造報道が行われた記録としてここに書き置きます。