街頭で世論調査をやったことあります②

2019-08-12

 世論調査の不正が行われた現場から ―その2―

編 「えっとね。実は、もしかしたら結果が2万に届かないかもなんですよ。みんなブーブー言ってて途中で投げ出しちゃった人も居そうだし。タイトルに2万を使いたいし。ここは、臨機応変にいきましょう」

 私もこの業界はそこそこ長いわけで、こんなことで驚いたりはしないです。このくらいはよくあること。
 こんな時は深く考えずに手際よく作業を終わらせて、次の仕事に向かって気持ちを切り替えるようにしていました。考えすぎは自分の精神を崩壊させます。とはいえ結果、崩壊したから業界から足を洗うことになったわけですが、それはまだまだ先のお話です・・・。

 作業を進めると実に色んな回答があって、それは興味深くありました。作業に没頭していると気が滅入るので、編集者と雑談をしながら進めていましたが、ある1コマ。

私 「第一候補は○○さんだけど、この人が人気しすぎるなら第二候補の△△さんにしてほしいとか書いてあるんですが。細かい字でビッシリと説明もありますよ。まあ、第一候補だけ反映でいいですよね~」
編 「ああ、すごいですねぇ、それ。それ画像で入れますから避けておいてくれますか。で、せっかくなので第二候補の人も1票つけといてください。これだけ熱心に記入してくれるんだからいいでしょ。空欄の「どちらでもない」の票は1つ減らしておいてくださいね」

 また別のシーンでは。

編 「将景さん、これ未回答で処理しました? 線で消してあるけど下に名前があるので、これも1票で数えましょう。同じようなケースがあればみんな1票で計算で」
私 「え、あ、はい。そうしましょう」
編 「できるだけ説得力のある数字データにしたいですからねぇ」

 1枚1枚のアンケートを手に取ると、調査員がどのような方法でアンケートを行ったのか類推するのは容易いです。
 汗染みに埃がついたように汚れたもの、しわが寄ったのをアイロンで伸ばしたのであろうもの、クリップで留めていた部分から千切れたのをセロテープで復元したもの。これらは過酷な炎天下、街頭でアンケートを行ったものです。用紙は汚く、文字も読みにくい。解答欄に空白も多い。
 私自身、自分の靴底の模様がくっきりとついた用紙を提出していました。風に飛ばされて車道に出そうになったのを脚で踏みつけて止めたからです。夕立でふやけのが乾いてモコモコになった用紙もありました。街頭で汗を流して集めただろう用紙はこのようになって当然だと思います。

 一方、アンケートを家族や友人、仕事の関係者で回して行った場合は紙がとてもきれいです。解答欄の字もとても丁寧で整っていますし、回答の抜けも基本的にありません。
「これは絶対に街頭で立ちながら書いたものじゃない」
 と断言できます。
 勿論、アンケートは街頭に立って行わなければならないというルールはありません。私自身も調査結果をまとめだした初日にこれに気づいた時は、半ば本気で後悔しました。ああ、身内アンケートでよかったんだな、と。次からはそうしよう、と思いました。

 しかし、実際に街頭に立って行われたアンケートと、友人知人に記入を依頼したアンケートとでは、必ず結果も大きく違ってくるのです。友人知人から依頼を受けてアンケートに答える側は、「友人知人が記入済みアンケートを見る」というのが念頭にあって回答をしますので、結果に影響が及ばないといったら嘘になります。

 事実、私が自分で調査を行った県では、東側と西側の2箇所でアンケートが実施( 私が東で200枚、他所の業者さんが西で200枚 )されましたが、ある設問で次のようなことがありました。
 私は街頭、西は明らかな身内アンケートでした。
 そしてある項目の集計を行った時、私は愕然としました。
 東側の集計で「7:3」の割合だった結果が、西側では「1:9」だった項目がありました。その結果を県単位にすると「3:7」となりました。
 東側で調査した結果とは間逆です。
 これは未回答(どちらでもないに分類。=有効回答とされず集計から除外)の差によるものですが、西側で調査を行った業者の代表者が、某政治団体の熱心なサポーターでしたので、それに忖度した回答が寄せられた結果が如実に反映された形となりました。

 編集者とそんな雑談を交わした場面もありましたが、とりあえず私の3泊4日を費やした全国集計が終わりました。上記のように、この段階で既に正しいデータでは無いとも言えますが、さらに追い討ちとなる出来事が。

私 「やっと終わりましたねぇ」
編 「いやぁ。これは・・・ちょっとまってくださいね。上と相談してきます」
――約20分後――
編 「ええと、将景さん。とりあえずこれでお疲れ様ということで、上の了承も貰いましたので缶詰から開放です。本当にありがとうございました。あとはこちちらでやりますので」
私 「まだやることが残っているなら手伝いますよ。どうせ今週の仕事はキャンセルしましたから」
編 「ああ、そうだったですね。すみません。今週はゆっくりお休みください。ギャラは3週間分くらい出しておきます。そのかわり・・・」
私 「はい、そのかわり」
編 「集計データは忘れてくださいね。記憶ごと持ち出し禁止ということで」
私 「え、あ、はい。記憶から消します」

 後日。
 この調査結果を用いた記事が出る前日、私の手元に見本紙が届きました。その結果、私の記憶に残っていた数字と似た数字がありました。

 紙面の大見出しに踊る数字「賛成60.4%、反対31.6%」
 私の集計した時点の結果は「賛成50.5%、反対21.6%、どちらでもない27.8%(小数点第一位で四捨五入)」でした。

 正直に言えば「この程度の修正か」というのが、当時の私の印象でそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。修正されることも当然わかっていました。
 さらにいえば「これで1つ貸しが出来た。あの編集者からはこれからも仕事が貰えそうだ」とほくそ笑み、事実それから随分と贔屓にしてもらいました。
 もう時効とはいえ、ほんとクズでごめんなさい。

 私は興味のある事柄で「世論調査の数字」を見かけると、同じような調査が行われいないか探すようになりました。同様の調査が無い場合は何の参考にもしませんし、気にも留めなくなりました。
 だって、アテにならないですから。