街頭で世論調査をやったことあります①

2019-08-12

 世論調査の不正が行われた現場から ―その1―

 このブログを書いている私(将景)は、フリージャーナリストして約15年にわたって日刊スポーツ紙、夕刊紙、週刊誌に原稿を送り込んだ経験があります。
 それらの仕事から完全に離れて既に10年が経とうとしていますが、このブログにまとめ記事を書き連ねる作業を行っていると鮮明に蘇る「記憶」があります。

 ああ、この記事を担当した記者とデスクは、きっとこんなやり取りをしたんだろうな。こういう不確かな一報で追い記事をと言われると裏取り(裏付け)に苦労するんだよな・・・などといった具合ですね。
 この「記者の記憶」のカテゴリーには、私がマスコミの最前線で経験した現場の実情のようなものを書き連ねていこうと考えています。
 

 今回は、対韓国 “輸出管理”と各メディアによる「世論調査」のズレ を書いた時に思い出した記憶について書きます。

 現在から遡ること十年ほど前の夏。私はある地方都市の駅前ロータリーで通行人に追いすがるようにして、あるいは行く手を塞ぐようにして声をかけていました。
「すみません、いま少しだけお時間ありませんか?」
 ナンパ? チガイマス。
「アンケートにご協力いただけませんか」
 そうです。私はその日、某媒体が独自に行った「世論調査の調査員」をしていたのです。

 お恥ずかしい話ですが、私は世論調査を独自で行うような「まともな媒体」の仕事はあまりしておりませんでした。やったとしても現場周辺で聞き込みをローラー作戦をする時に借り出されるコマの1人でした。記者クラブに机があるかないか微妙な弱小媒体の、しかも外注記者(フリーですから)としては、そうした機会があればお手伝いとして現場に入っておく必要があったのです。現場の記者たちと顔なじみになっておいて後々、別件取材の際に「情報交換」(実際には情報のおこぼれ)に与ろうというわけですね。
 今にして思えば、まったく浅ましいものですが・・・。

 閑話休題。
 
 そんなわけで、たまたま大手媒体からお声をかけて頂いた私は二つ返事で調査の仕事を請けたのです。
 かくして「はじめての世論調査」に臨んだ私は、どこぞの報道機関の腕章もなく、慌てて100円均一で買い揃えた 「用箋挟」(ようせんばさみ) に大量コピーしたアンケート用紙を挟んで出陣しました。
 周囲を見渡せば、私と同じような声かけをしている人たちがチラホラ。キャッチセールス、宗教勧誘、何がしかの団体の寄付金集め・・・。実に、怪しげ。怪しげではあるのですが、彼らは私よりも確実に高確率で通行人の足を止めさせていました。

 しばし彼らの動きを注視すると、その動きが洗練されていることに気づきます。通行人は一見すると皆同じように流れていきますが、あるタイミング、ある場所では、足を止めて「目的地に向かって歩く以外の行動」をします。そこを狙うのです。

 大通りを横切る横断歩道で長い信号待ちをする人。
 暑さに耐えかねた人を引き寄せる木陰。
 待ち合わせの場所となるスポット周辺。
 自動販売機で飲み物を購入し蓋を開けた人。
 
 ティッシュ配りの人の後ろは良ポジションでした。いったん人の流れから抜け出すタイミングで声をかけると足を止めてくれるケースが多かったです。そのポジションにちょうど木陰でもあれば、アンケートに協力してくれる人をキャッチできる確率はぐんと上がりました。
 それでも真夏の焼けるような日差しの中で、足を止めてアンケートに答えてくれる人は十数人に1人という具合でしたが・・・。

  どこの媒体でこの調査を行ったかは伏せさせて頂きます。
 読み進めるに従って、とても名前を出せるものではないとお気づきになられるかとは思いますし、これあの媒体じゃない?と思われる場面もあるかもしれませんが、そこは敢えて触れないでくださいませ!

 暑い、しんどい、死ぬ。
 やってられんわ・・・。

 頭の中で散々愚痴りながらも、それでもこれは仕事なのだと言い聞かせ、昼過ぎから日が暮れて空腹の限界が来るまでひたすら道行く人に声をかけました。

 果たして一日目を終えて、集まったアンケートは全部で30枚程度。聞き取り項目が多いこと、またそのせいで記入欄が小さく書きにくいこと、時間がかかること等、足を止めてくれても説明中に逃げられることが多々ありました。
 後日、別の機会に調査会社の方と話す機会があったのですが「そりゃ基本がなってない」と力説されたことも。
「1回の調査でそんなに盛りだくさん聞けるなら、私らだって苦労しないさ。25項目? 無理無理。街頭アンケならその3分の1くらいじゃないとかえって効率が落ちるよ」

 ともあれ手元に30枚。そのうち7,8枚は記入が途中までだったり、未記入の空欄があるものでした。
 そして引き受けた枚数は200枚。さらに「男女比、年齢分布をなるべく均等に」という条件もつけられていました。
 帰宅してすぐ担当編集者に電話。

私 「これ、きつくないです? 一日やって30枚だったんですけど」
編 「すごい、30も集まったんですか! 将景さんが一番早いですよ、いい調子で集まってますね」
私 「いや未記入や空欄もあるし男女比や年代別まではとても・・・」
編 「いやいや大丈夫ですよ。年代は将景さんが書き込むようになっているでしょ?」
私 「それはそうですけど大丈夫の根拠にはならないじゃ・・・あっ」
編 「そうそう。若い人なら25~35ってメモしておけば後で調整できますから」
私 「なるほど、なるほど・・・」
編 「まあ男女も・・・。ああ、そうだ、将景さん。早く200枚いけそうだし集計も手伝ってくださいよ。ギャラ乗せますから」
私 「私はいいですけど、これ大事な内部資料じゃないですか。私が入り込んでいいんです?」
編 「こういうのはフィーリングなんで! 良かった、助かったわー。僕もこんなの押し付けられて・・・みんな(調査に借り出された末端記者)から大ブーイングで朝から携帯が鳴りっぱなしなんですよ。じゃあお願いしますね!」

 やはり、多くの記者が私と同じように不平不満の電話を入れていた様子。それでも現在時点で私の調査人数がトップだと聞けば、少しはやる気も沸いてきます。
 私は翌日も翌々日も朝から晩まで駅前ロータリーで調査を続けて、4日目の夕方には200枚を達成していました。予備として5枚ほど多く回答を集めていたほどで、このテの仕事はやればやるほどコツが掴めてくるものなのだな、と感心した記憶もあります。

 5日目。わたしは上京して某編集部に入りました。
 出迎えてくれた編集は疲れきった表情を作りながら私を向かえてくれました。

私 「大丈夫ですか。今にも死にそうだけど」
編 「うん、なんとかね。あ、ちょっと待って電話だ」

 こんな調子でゆっくり会話もできない状態。編集者は携帯で話しながら身振りで私を小さな会議室に通した。電話を切ると早口で切り出す。

編 「今はまだ少ないけど調査票はここに集まってきます。ここで一緒に集計作業をしましょう」
私 「了解です」

 会議机の上には開封された1つの封筒と未開封が2つ。回収済みの調査票は200枚程度のようだ。さっそく作業に取り掛かろうとするが・・・空白が目立つ。目立つというか、ほとんど空白の調査用紙も。

私 「これ、空白の項目はぜんぶ「どちらでもない」に集計していいんですか。ほとんどそうなっちゃいますけど」
編 「そうですね。とりあえずはそれでいきましょう」
私 「とりあえずって・・・」
編 「まあ、とりあえず、とりあえず」

 この時点から嫌な予感は感じていましたが、それよりも目の前のアンケート票と向き合わなくては処理しきれなくなると判断。なにせアンケート結果は総数で2万以上にもなると聞かされています。
 ただひたすら、黙々と目の前の集計をとって数字をパソコンに入力していく作業です。「あとで詳細な内容が見られるように」と、都道府県単位よりさらに細かくデータを分類。作業をしている間にも、郵便や宅配便、列車便(新幹線便)、バイク便などなどで全国から続々とアンケート用紙が送られてきます。
 どんどん山積みになっていくわけですが、その山をできるだけ見ないように・・・とにかく手を止めずに進めます。
 当然、会議室に缶詰めです。
 狭い会議室で黙々と作業を続けて昼はデリバリーの弁当。時々、社屋の屋上に外の空気を吸いに行ったりしますが、まったく寛げる場所はありません。

 外注に出さずに自社だけで世論調査を行おうなんて考えるのは、やはりお金持ちの一流企業なんです。その一流企業の社員たちの「あれ誰だよ」みたいな目に晒され(被害妄想)ながら、ゆっくりなんて出来ません。
 ここは集中して一気に集計を済ませて「使えるやつ」だと担当編集に印象付ける一手です。

 夜はほどほどに切り上げ、担当さんと軽く食事をして手配してもらったビジネスホテルに宿泊。2日目は社員様の出勤と重ならないように午前10時の少し前に会議室へ。(受付のお姉さんが暇そうにしている時間帯にならないとスムーズに入館手続きができませんし・・・)

 最初に「問題」が起きたのは2日目早々でした。

 九州地方から届いたアンケート用紙の集計。4,5枚目を通しただけではっきり分かりました。
 アンケートの対象者が書くはずの記入欄に同じ筆跡が同ある、と。やたらと最後のトメをハネる特徴のある癖字でした。

私 「これ、見てください。筆跡」
編 「ああ・・・くそ、やられましたね。これどこから送られてきたやつです?」
私 「(事務所名)です」
編 「ですよね。所長の○○さんの字だ。なんですぐバレることするかなぁ・・・」

 個人名(固有名詞)を書く箇所に同じ名前があれば、まるでコピーでも見るかのようでした。しかも全ての記入に「青みがかったインクの太めのボールペン」を使っているので、 否が応にも目に留まるのです。


編 「これはギャラ払えないね。クレーム入れるよりお金払わないって態度で示したほうがいいな・・・」
私 「それは当然ですね。じゃあ、これは除外しときます」
編 「あ、一応、これも集計してください。筆跡違うのもあるし。結果に含むかどうかは後で考えましょう」
私 「まじですか」
編 「えっとね。実は、もしかしたら結果が2万に届かないかもなんですよ。みんなブーブー言ってて途中で投げ出しちゃった人も居そうだし。タイトルに2万を使いたいし。ここは、臨機応変にいきましょう」

 さあ、きな臭くなって参りました!


 不正現場に居合わせ・・・いいえ。不正に携わった私の記憶はその2に続きます・・・。